▷ 「プロシュート」と「ジャンボン・セック」、「ハモン・セラーノ」の違い
先述した”イタリアからの豚肉、および豚肉加工品等の一時輸入停止措置”によって、現在日本でイタリア産のプロシュートを食べることが非常に困難になっています。
ハムの輸入会社も各社、イタリア産プロシュートに代わる商品の販売に力をいれており、今まではメジャーではなかったオーストリーやハンガリーなどの生ハムを見る機会も増えてきました。
では、イタリア産プロシュートに比べて味わいや風味はどう違うのでしょうか?よく目にするフランス産ジャンボン・セックとスペイン産ハモン・セラーノとイタリア産プロシュートを比較してみました。
まずプロシュートは、豚肉を塩漬けしてから風味をつけるために熟成させます。熟成期間が短めで、豚肉本来の甘味と塩味がバランスよく調和した、やや柔らかい食感と風味豊かな味わいが特徴の生ハムです。
そして、ジャンボンセック。豚肉を塩漬けしてから天日干しにして作られますが、この塩漬けの期間が長いのでプロシュートより塩味が強めの味わいが特徴です。よく動かすことで脂肪分が少な目の豚もも肉を使ったあっさりとした味わいで、生ハムの中では柔らかい食感が一番イタリア産プロシュートに近いと言われています。
一方、ハモン・セラーノですが、熟成期間が長く噛み締めるごとに豚肉本来の風味が楽しめる生ハムです。やや塩味が控えめで、熟成によるより複雑で風味豊か味わいが特徴です。
濃い旨味を感じたい方におすすめの生ハムと言えます。
全てに当てはまるとは言えませんが、一般的にスペインは熟成温度帯が高めなので水分が抜けてややしっかりとした質感になる傾向があり、一方フランスやイタリアは熟成温度帯が低めなのでスペインに比べるとハムに水分がより残り、しっとりとした食感になる傾向にあります。
こののように、それぞれの生ハムに独自の製法と風味がありますので、ぜひお好みに応じて選んでみて下さい。
ソムリエ直伝「生ハムとワインの楽しみ方」
生ハムはもちろん料理の具材として食されることも多いですが、そのままや、ちょっとアレンジをするだけで美味しいのでワインを楽しむ時のおつまみとして最高です。基本的に白・ロゼ・赤・スパークリンワイン・・・とどんなタイプのワインとも楽しめますが、ソムリエおすすめの「ワインとの合わせ方」を2つご紹介します。
▷ ワインの合わせ方その1:「国を合わせる」
美味しい生ハムができる国は、同じくワインも美味しい国。ということで、まずは
「生まれた国」をあわせる組み合わせはいかかですか?
薄くスライスしたイタリアのプロシュートには、
イタリアの微発泡赤ワイン「ランブルスコ」がおすすめ。強すぎない柔らかな優しい味わいと溶けるような食感の生ハムが口の中で溶けあいます。ラズベリーのようなフレッシュな果実味と酸味が生ハムの脂身をさっぱりと感じさせてくれ、食べ飽きることがありません。
厚みがあり噛み締めて肉の旨味を楽しむスペインのハモンには、生ハムの味わいに負けないスペイン産の赤ワインを。比較的あっさり目のハモン・セラーノにはジューシーな果実味が特徴のブドウ品種
「ガルナッチャ」を使ったフレッシュな赤ワイン、旨味が濃いハモン・イベリコにはスペインを代表する品種
「テンプラニーリョ」を使い樽熟成をさせたフルボディの赤ワインをおすすめします。
▷ ワインの合わせ方その2:「ハムの味わいのタイプでワインを選ぶ」
スペインの「ハモン・セラーノ」は淡泊であっさり目、「ハモン・イベリコ」は脂にコクがあり旨味が濃い、などのように、同じ国の生ハムでも原材料の豚によって味わいが違います。
難しい!!じゃあ、一体なにを合わせたらいいの??という時の1つの指標になるのが
「生ハムの熟成期間」です。一般的に
「熟成の短い若い生ハム」は「あっさりと淡泊でフレッシュさの味わい」のものが多いので、
ワインも「フレッシュで軽やかなもの」を合わせるとよいでしょう。白ワイン、ロゼワイン、そしてライトボディの赤ワインなどピュアな味わいのものがおすすめです。
反対に
「熟成の長い生ハム」は「コクがあり複雑な味わい」になりますので、
ワインも「複雑さのあるもの」が合います。樽で熟成させて香りや味わいが複雑な赤ワインがおすすめです。イタリアの長期熟成に向くぶどう「ネッビオーロ」種やスペインの「テンプラニーリョ」種でできたフルボディのワインなどがよいでしょう。
迷った時は「スパークリングワイン」を選びましょう!スパークリングワインにある泡の刺激がハムの脂身をより甘く感じさせてくれます。また、シュワっとした泡立ちがハムを食べた後の口の中をクリーンにさっぱりさせてくれるので、また次が食べたくなる・・・という「美味しいループ」を生み出してくれます。
生ハムの一人前って何グラム?
レストランやバルで生ハムを提供する場合、一人分を約20~30gとしているところが多いように思います。なので、ご自宅で食後やアペリティフなどに軽く摘まむ程度であれば20gくらい、と考えるとよいでしょう。
100gのパックであれば約4~5人前、また4~5回分ほど入っている、と考えていただければよいと思います。
おつまみだけじゃなく、料理にも使いたい!たくさん食べたい!という方は200gのパックなどもありますので、用途に合わせてお選び下さい。
生ハムにある白い斑点の正体は?
パックされた生ハムを見ると、たまに白い斑点がある時があります。「開封していないのにカビ?」と思われる方もいらっしゃいますが、これはカビではなく
「チロシン」と呼ばれる白い結晶でタンパク質中のアミノ酸が結晶化したものです。
熟成がよく進んだ生ハムほど、その発生頻度が高く、長期熟成チーズいも見られる現象です。チロシンは生ハムの品質に影響を与えるものではなく、
そのまま食しても全く問題ありません。
生ハム、食肉加工品の保存方法と美味しい食べ方
1パック食べきれなかった!と生ハムが残ってしまった場合は、必ず
「ラップに包んで」保管してください。空気に触れることで生ハムが酸化したり、乾燥が進んでしまいます。
また、ラップに包んだうえでジップロックなどの保存袋にいれ空気を抜いてからチャックをしめるとより良いです。その状態で冷蔵庫に入れておけば一週間ほど持ちますが、一度開封した生ハムは1週間を目安に食べきってください。
また、生ハムは脂の部分に熟成で生み出されたナッツ系の旨味が詰まっています。その脂が溶け出した頃が一番おいしいので、冷蔵保存された生ハム、そしてサラミなどの食肉加工品を食べる時は
食べる30分~1時間ほど前には冷蔵庫から出し、常温にならしておいてください。
そうすることで、ハムの脂身の部分が柔らかくとろっとろになり、口の中に入れたときにとろける食感を楽しむことができます。ハムの脂身が少し溶けてキラキラ輝いてきたら食べごろのサインです。
まとめ「産地ごとに味わいが違う生ハムを楽しもう!」
世界各国の生ハムについてお伝えしてきましたが、いかがだったでしょうか?
その国、そしてその地域ごとに食文化や気候に合わせて、長い歴史の中で独特の生ハムをつくりあげてきているので、「生ハムとはこういうもの」と簡単に説明することができません。
その複雑さをぜひ「楽しい」「面白い」と感じていただけたら、と思います。違う国の生ハムをお皿に並べて食べ比べしてみる、というのもおすすめです。
イタリアの生ハムを楽しむことができない2023年現在、各輸入業者さんはイタリアの生ハムの代わりになるもの、といつも以上に違う国の生ハムに力を入れて販売されていますので、ぜひこの機会に今まで食べたことのなかった生ハムに親しんでみてはいかがでしょうか?
きっと新しい美味しい味、そしてワインと合わせたときの至福の時が楽しめるはずです。
参考文献
■高橋矩彦 発行/ハム&ソーセージ大全/(株)スタジオ タック クリエイティブ/2013
ISBN:978-4-88393-608-3
■早嶋茂 発行/「生ハム」「サラミ」大全/旭屋出版編集部/2018
ISBN:978-4-7511-1353-0
■生ハム教本/一般社団法人日本生ハム協会/2019
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