ヴァイングート・ドクター・ローゼン
アーネスト・ローゼン氏は偉大な伝統を受け継ぐドイツワインの名家に生まれました。ドクター・ローゼン醸造所はモーゼル川沿いで二百年もワイン造りを営んでいるのだから、誰もがアーネストが家業を継ぐのは当然だと思うことでしょう。しかし、現実は違いました。若かりしアーネストは実家のブドウ畑よりもこの地域に集中するローマ遺跡の方により興味を抱いていたので、大学では考古学を専攻しました。
しかし、1980年代に入り突如人生の選択を迫られます。父親は醸造所の代替わりを考えていましたが、子どもたちのうち引き継げる年齢に達しているものがいないか、または年齢に達していても興味があるものがいませんでした。そんな中、アーネストが家業を継いだのは、ドラマチックに言えば自分の運命と向き合う時が来たと言えるでしょうが、実際は残りくじを引かされた選択だった、という方が正しいでしょう。しかし蓋を開けてみれば、古いローマ遺跡の崩れた石より、実家のブドウ畑の砕けたスレート石の方が向いていると実感したのです。
それからは、これまでの情熱をワイン造りに注ぎ込むことになります。栽培・醸造学においてドイツで高名なガイゼンハイム大学で醸造学を修め、世界の偉大なワインを求めて自ら調査を始めました。オーストリア、ブルゴーニュ、アルザスを始め、カリフォルニアへも旅しました。偉大なワインがあるところにはどこにでも出向き、名の知れた醸造家たちの共通点を探し求めたのです。そこでアーネストは、偉大と言われる人々は皆、自らの文化的遺産ともいえる伝統を堂々と示す明確なコンセプトを持ったワイン造りに対する献身と情熱に溢れていることを発見します。またそれと同時に、伝統への敬意を持ちながらも固執しすぎない広い見識を持ち合わせていました。そうすることで、伝統だからといって全てを頑なに守るのではなく、品質の向上になるなら近代的な醸造技術を取り入れるという、ゆとりが生まれるのです。
アーネストをアーネストたらしめているのはこの大きな視点であり、それは伝統と革新のバランスを取るという哲学なのです。この考え方があったからこそ、簡単で馴染みやすく、すでに試された、必ずしも真実ではないものという枠を超えて、真にワールドクラスとなる独自のワインを造り上げたのです。